ラクスルアナンダ

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いまさらのDX活動の悲惨な現実#1

世の中で、DX(デジタルエクスチェンジ)が言われてから結構時間が経ちました。

ほとんどの企業で、何らかの取り組みがされています。

 

で、そういうのを聞きつけてきた社長が言い出すのが、「うちもDXをしよう! 特盛で!」というのがしばしば見受けられます。

 

今日は、そんな悲惨な目にあっているIT屋のお話をひとつ。

 

 

◆DXを始めろ! という業務

◆始まりは社長の見栄!?

その会社でも、数年前からいくつかのコンサル会社から、「これからはビックデータを元にしたDXを活用していかなければ、やがて淘汰されますよ」と脅され続けているというのはよくある話。そのうちに社長仲間同士でも、「ウチもDX始めたよ!」などと聞いてきて、ついに社長が「うちもDXに取り組もう! 担当はDXだからIT担当役員の君が適当でしょ。頼むよ!」と丸投げ開始。

 

  DX ⇒ デジタル ⇒ IT担当

 

この図式は、結構多くの会社で見受けられます。

 

実績作りのために、従順な高橋課長(仮名)を呼びつけて、「今度、DX推進室というのを作ったから、君がそこの責任者ね。期待しているよ!! 頑張って!」と。

社長には、「若手のホープの高橋君をDX推進室室長にしました。彼が頑張ってくれます」と報告できるわけです。

 

さて、その高橋新室長。実は部下がいません。なにしろ、全社のITインフラをメンテしているので、そのメンバーを引き抜くわけにも行かず、「さてどうしようか?」となります。

 

とにかく、「DXで実績を上げろ!」と言われているので、何かをしなければいけませんが、どうしていいかは全く不明。「DXで実績が出た」って、何がどうなれば「実績」として認められるかは誰も教えてくれません。というか、誰も考えてません。

 

困り果てて、ちょっと過去に付き合いのあったコンサル会社に泣きつくわけです。

 「DXってできますか?」

と。コンサル会社にとっては、カモネギどころか、ついでに鍋にスープつき。

 

 「OK! ウチにまかせてください!」

 

◆コンサル会社の思惑と丸投げDX

一週間後に提案書が届きます。

 

 「従業員勤怠管理システムを刷新しましょう」

 

曰く、

 

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従業員の勤務状況をつぶさに調べて、これを統計的に処理すれば、無駄な作業をしている従業員を発見できます。その従業員に対して適切な指導をすれば、業務効率が30%はアップしますよ。

従業員のデータを細かく取得するというのは従来の技術ではできませんでした。なにしろデータが膨大になって、今までのコンピュータでは処理できませんでしたから。でも、当社のクラウドシステムを使えば、膨大な統計処理でも軽々とこなせます。そして、誰がどのような作業をしていたかを分類して、リアルタイムにグラフ化できます。そこから無駄な作業を抽出するのです。これこそがビッグ(な)データの処理なのです。

弊社のシステムはト○タ・○菱など大手企業でも採用実績がありますから、安心して使えます。コストは、導入費用が多少ありますが、クラウド利用なのでソフトを買い切りするよりもずっとお安くできます。

 

システムの導入に関しては、従業員のPCでインストーラーを起動していただくだけです。あとは、弊社のクラウドにデータが上がり、分析情報が御社で閲覧できるようになるので、弊社のコンサルタントが課題の抽出のお手伝いをします

 

是非ご検討ください。

――――――――――――――――――――

 

部下がいない高橋室長にとっては願ったり叶ったりです。

 

カモネギ、鍋・スープ付き

で、高橋室長はコンサル会社の資料を丸写しして役員会に報告しました。

 

サンプルとして、文責画面の動画もついています。かっこいいグラフやパイチャートが表示され、それをクリックすると、その部門の詳細なグラフが表示され、さらにそこから個人の働き方までつぶさにわかります。そして、「この作業の成果は、活用されていません。」などというメッセージが表示されます。

社長はじめ役員も、「おお、これならコストが削減できるな!」と大喜びです。それに昨今の「働き方改革」にもなっているので、一石二鳥ですね。

   これぞDX!!

と賛同をもらって、導入することに決定。

ソフトライセンス契約費用1,000万は会社にとっては結構な金額ですが、従業員100人の業務が平均で10%改善すれば1年で元がとれるはず

 

 

最初はコンサルティング費用として、1,000万で、年間利用ライセンスが1人あたり2万。クラウド利用費用は別途データ量で決定。

…だとしても2年ちょっとでペイしそうですね?

 

◆涙なくしては語れないDX

はい。ここまで読んでいただいてありがとうございます。

 

「あ~。あるある。涙なくしては語れないな~」と思われた方。あなたのご苦労もお察しします。

 

「良いことじゃん」と思われた方。コンサル会社とは付き合わないほうがいいです。確実にカモられます。

 

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◆種明かし

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◆そもそもDXとは

そもそも、DXとは何でしょうか。

DXは2004年にスウェーデンウメオ大学のエリック・ストルターマン教授によって提唱された概念で、その内容は「進化し続けるテクノロジーが人々の生活を豊かにしていく」というものでした。しかし、間にコンサルティング会社が入るとろくなことにはなりません。DXの概念は捻じ曲げられ、会社の利益になることに変容します。

 

つまるところ、会社にとってのDXというのは、「会社のプロセスの改革によってその会社が競争優位を得る」ということになったのです。それでも、このコンセプト自体は間違っていません。というか昔から競争優位を得るためには、プロセスの革新は必須でしたし、当たり前のこと行っているに過ぎません。

そしてIT技術(デジタル)はプロセスの改革をするための道具、選択肢のひとつでしかありません。これを「デジタル」などとIT技術が何かを変えていくかのように誤解させたのは、コンサルティング会社やソフト会社が、「これをすれば、会社は勝ち残れる」という道具として、デジタル技術をネタにしたに過ぎません。

 

こういうタイトルに惹かれてこの記事にたどり着いたあなたなら当然わかると思いますが、DXはITの業務のことではなく、会社のプロセスの変革です。

 

そんなものが、いくら役員とはいえ、IT担当はもともと、ネットワーク基盤を作ったり、Officeソフトの導入管理をしたりしている部署だったりするので、会社のプロセス、それも顧客にどのようにアプローチして、「優良顧客(たくさんお金を落としてくれる人)をいかに増やしていくか」などという部分には全く関係ありません。

 

で、もしそのIT担当役員がDXについてきちんと勉強している人なら、営業・開発関係の役員とうまく調整して、本当にDXを成し遂げられるかもしれませんが、大抵は、そうした役員は「いまやっている業務で手一杯。あなたが担当になったのだから、そっちでなんとかして」という反応をされて、困り果てることでしょう。

 

ましてや、役員をやっている年代の人なら、「DX」という文字は「デラックス」にしか見えません。その昔、車のシリーズのなかで最上位モデルには、このエンブレムが付いていました。そのイメージがある人には、DXは「デラックス」としか読めませんよ(笑)。

 

そんな人が、会社のデジタル革命による顧客エクスペリエンスについて語れるわけがないのです。

 

◆業務効率化をしても利益は増えない

次の問題は、このコンサル会社の提案と役員たちの皮算用です。

例えば、提案の通り従業員の業務が10%効率化ができたとしましょう。

 

それで、利益が増えますか?

 

保証します。絶対に増えません

業務効率化で利益が増えるのは、10%効率化によって残った業務を振り分けなおして10%の従業員をやめさせたときだけです。

従業員が減らない限り、従業員に支払う給料は同じです。つまりコストは減りません。業務効率化は売上を増やすわけでもないので、売上とコストの差である利益も増えません。小学生でもわかります。

 

「その10%で新しい業務をして売上を増やせるじゃないか」と考えるかもしれませんが、「新しい業務」が何かがわかっていなければ、売上は変わりません。ましてや、その業務が売上を増やすことができるかどうかは、これまた単なる皮算用に過ぎないのです。

 

そして、「新しい業務としてこれをやれ」と言われない限り従業員は、それをやりません。さらにその業務が全員ができるわけでもないことは自明です。つまり、業務が減った人は、コーヒーを飲む時間が増えるか、残った仕事を今まで以上にゆっくりやるだけのことです。

 

残業代を減らせば、コストが減りますので利益が増えますが、従業員にとっては残業代も給料のウチです。なんだかんだと理由をつけて残業をします。残業が減るのは、その部署が残業をしてもなお、余りあるほどの業務量があったときだけです。

 

で、結果としては経営上は何も変わらないわけです。

 

それが経営に影響しないのであれば、業務効率化の活動は「やるだけ無駄」です。それこそ効率化の対象で、すぐにやめるべきですね。

 

◆分析と改革は別物

このコンサル会社の提案に、「分析すれば会社が変わる」かのようにありますが、分析したとしても、その結果に基づいて仕事のやり方を変えなければ何も変わりません。

 

分析することは、次の戦略・作戦を考えるための手段であって、目的ではないのです。

 

コンサル会社としては、データの分析はできるかもしれません。どこに問題があるかは、分析能力の高い会社なら指摘はできるかもしれません。しかし、「この業務が問題です」と言われたからといって、問題が解決するわけではありません。

つまり「問題がわかる」ことと「問題がなくなる」ことは、全く別物です。

 

そもそもその業務は何らかの必要性があって始まっています。其の必要性が否定されない限り、「無駄です」→「じゃあやめましょう」とはなりません。

 

その間のギャップを認識せずに、コンサル会社が問題分析までしてくれる イコール 問題が解決する と考えるのは早計というか、「脳みそで考えてる?」と問いただしたくなるほど。

 

◆問題はプロセスにある

さらに、通常会社の業務に関することであれば、業務の生産性を下げている原因というのは、特定の業務にあるのではなく、プロセスにあります。

プロセスというものは、業務と業務のつながりです。それは抽象的な概念であって、何かのツールを入れたからと言って測定できるわけではありません。

 

測定できないものは、数値化はできませんし、数値化できなければグラフにもなりません。当然分析もできないわけです。

 

だから、デジタル化によって、データをいくら集めたからと言って、プロセスの問題がわかる事はありません。

 

さらに紹介した例では、「超一流企業でも導入実績がある」と書かれていますが、今市販されているちょっとした規模以上のソフトはほとんどが、そうした企業に導入実績があります。

この理由は簡単で、そうした企業には必ず売り込み行っていて、実験的に導入することは普通にあるからです(とくにグループ企業の特定の部署だけなど)。実験的な導入であっても「導入」には違いがありません。ト○タが全社で使っていることはまずありません。なので、こうした売り文句は、システムを外反する会社の「常套句」です。

 

ましてや、それが実績を上げているかどうかは、どこにも書いてないです。なにしろ、「このツールを入れるだけで利益が増えた」と書けば嘘になってしまうのは、ここで述べたとおりなのですから。

 

◆業務システム選びは慎重に

とくに、ここで書いたような従業員の勤怠管理システムなど業務に密着したシステムの導入は大問題を引き起こします。

 

なにしろ業務に密着しているので、一度導入したら簡単にはやめられません。

だとすると、このコンサル会社のすすめるソフトは、今後何十年かは使い続けないといけないわけです。その間、毎年コンサルティング費用が取られますし、利用料も取られ続けます。ソフトを作っている会社にとってはおいしいお客になるわけです。当然紹介したコンサル会社にも相当のキックバックが見込めるでしょう。

※そういう意味では、ツールは利益を生んでいますね。

※導入した会社に、ではありませんが。

 

利益は増えない、顧客も増えない、利用料だけを取られ続ける。

こんなシステムが、「会社のプロセスの改革によってその会社が競争優位を得る」道具であることはありません。

 

……が、社長や役員に「なにかDXをしろ! 大盛り・汁だくで!」と言われた担当者としては、役員に向かって「あんた、バカ?」とは言えないのも事実。

 

解決策は、早めに神経内科の予約を取っておくことと、育毛剤を買いに行くことくらいですかね?(笑)